随分と前になるのだろうか。
ドラマの影響か何かで「ワイン」がブームになっていた時期があった。
俺はドラマ等は全く見ないタチなので そんなブームなど全くお構いなしだったが、
ある日 立ち寄ったスーパーの一角で行われていた
「アルコール類の安売りコーナー」で ふと足を止めた俺は、
それに付けられた398円という手頃な値段に惹かれてしまい、
せっかくだからと、1本の「ワイン」を買っていた。
そして、ついさっき それを開封した。
何故、買って直ぐに飲まず、今の今まで放置していたのか?
理由は簡単。
「コルク抜きを持っていなかったから。」
あまりにも馬鹿馬鹿しい理由だが、恥を承知でもう一度ハッキリと書こう。
「ワインを買ったのはいいが、俺はコルク抜きを持っていなかったので、今までずっとワインを開封できずにいた。」
普通ならその事に気付いた時点で、直ぐにでもコルク抜きを買い求める所だが、
元々が「どうでもいい買い物」だったので、
「ま、気が向いたときにでも買えばいいや」
そんな風に、長い間ズルズルと放置したままとなっていた。
それが先日、夕食を買いに立ち寄ったスーパー(実はワインを買ったのと同じ店)の一角で行われていた金物市で、「三得オープナー」という大変便利なグッズが手に入ったので、
遂に今回、「ワイン開封」が決行される事となった。
〜「三得オープナー」とは〜
「栓抜き」「缶切り」「コルク抜き」と、
これ1つで3種類の開封に対応する、大変素晴らしい便利グッズ。
購入価格は398円(税別)。
「キュヴェ・コケット」
そんな名前の、白ワイン。
この750mlの中に封じ込められた、ロワール地方の爽やかな風。
カーニバルのような楽しいラベルの奥には、暖かな甘みを携えた雄大なる泉が…
安物ワインを前に「ニセ食通」を気取りながら、とっとと開封作業に取りかかる。
思った以上にビンの口深くにメリ込んでいる「コルク栓」に、
先端がドリルのような「コルク抜き」をねじり込みながら慎重に固定していく。
「メリ、メリィ…」
上部のコルクが割れてきたのが気になるが、とりあえず しっかりと固定されたようなので、このへんで引き抜いてみる事にする。
「ぬぅぅぅぅぅうぅ………! ぬ、抜けないッ!!!!! 」
力を振り絞るものの、コルク栓はビクともしない。
「ワイン通とは、なんかスゲェ腕力でも持っているのかーッ!?」
などと考えてしまうほど、とにかくコルク栓は堅かった。
しばらく奮闘するも、全く手応えが無い。それに力の込めすぎで
かなり手が痛くなってきたので、ひとまず休憩する事に。
しかし休んでいると、ワインごときに奮闘するのが何だか面倒に思えてくる。
いっそのこと「このままの状態で冷蔵庫に戻してやろうか」
という考えもよぎったが、コルク抜きが「Tの字」に突き刺さったままのワイン瓶の、
そのあまりのマヌケさに、
「逃げちゃ駄目だ! 逃げちゃ駄目だ!」
と、一昔前に流行った某アニメのセリフを呟きつつ、俺は再トライを決意した。
ファイアだ、俺ッ!!!(意味不明)
今度は手が痛くならないように、わざわざ「手袋」をはめた。
用意万全、気合十分。
「ヌゥゥォォォオオオオオオオリャァアアアアッッッ!!!!!!」
う…動いたッ!
少しずつだが、確実に、コルクは上に上がっていくッ!!
そしてッ!!!
「メシャ…ボッコォォォォォン!!!」
炸裂。
半分ほど引き抜いた所でコルク栓は崩壊した。
引き抜かれたのは「コルク抜き」と、
そして部屋のあちこちに飛び散った「コルク上部の破片」。もちろん栓はしっかり塞がれている。
ただ「ワインを開けようとしている」だけなのに、なんて無様な光景だ。
そんな事が目の前で起こっている割には、
全く取り乱さず、淡々と周囲を眺めた後、
「なんか『ぶるぅ日記』のネタみたいだなぁ」
などと、妙にポジティブ・シンキング&他人事な俺がいた。
だが、部屋に飛び散るコルク片の数々は、紛れもなく今、この部屋で起こっている現実。ネタになるとか考えている場合ではない。
「はてさて、どうしたものか…」
コルクは上部が吹き飛んで、すっかりボロボロになっている。
この状態では、再度コルク抜きを突き刺して、
もしも次にコルクが潰れたら、おそらくその時は…
しかし!
こんな残り半分を残した状態で、今さら引き下がる訳にはいかないッ!!
決意も新たに、コルク抜きを残った栓にねじ込むと、開封を再開。
「オラオラオラオラオラオラオラオラ
オラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラァァ――――ッ!!」
機械のように精密で力強く!
…には程遠い、ただの「力任せ」だが、必死になってコルク栓を引き上げる!
「ボッゴォォン!」
セカンドインパクト発生。
更に粉々にハジけ飛ぶコルク片。しかも栓は依然として閉じられたまま…。
「きっと、なんとかコルクを引き抜いたとしても、ワインの中にコルク片が…」
そう考えると、今自分のやっている事が心底嫌になる。
だが、ここまで来てしまっては、もう引き返すことは出来ない。
やるしかないのだ。
そして俺は「覚悟」を決めた。
コルク抜きのドリルを、コルク栓を完璧に貫ききった状態で固定し、そのまま「3度目」のチャレンジ。
覚悟したとはいえ、気分はその時ハマッていたゲーム「デビルサマナー」の悪魔のセリフ、
「オレサマ、ヤケッパチ!」
そして…
「…ボコン」
最後はあっけない音を立てて、遂にワインの封印は解かれた。
だが、
周辺に飛び散ったコルクの粉…
大きく2つに割れたコルク栓…
そして、瓶の中に浮かぶ、大小さまざまなコルク片…
この酷い有様は何だ。
”生きる為のレシピなんてない ないさ…”
ああ、そうさ。レシピなんてハナっから持ち合わせちゃあいねぇ俺だから、
別に飲みたくもないワインなんぞ買って、そんでこんな情けない目にあっちまうんだ。
ああ、俺は駄目な野郎さ。
ワインなんてシャレたモノを飲む資格なんざ、
持ち合わせちゃいねぇのさ…
この作業中に聴いていた「Mr.Children」の曲が、グロッキーな俺の心に容赦なく染みわたる。
そして今。
ワインの注がれたグラスには、よく見ると細かなコルク片が渦を巻いき、漂っている。
ボトルの中には、それよりもっと大きな破片が浮かんでいる。
目に見えているコルク片は指で取り除いてから飲むが、
それでも飲むと時折、舌に感じる異物感。
アルコールが脳内に染みわたってるせいか、不思議と怒りは沸いてこない。
だが、ため息だけは止めどなく溢れ出す。
「ふぅぅぅぅ…」
この文章を書き上げようとしている今、ちょうど瓶が空っぽになった。
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