荒木先生が熊野を訪れたキッカケは「てんぎゃん」!? 『熊野本宮大社正遷座120年大祭』荒木飛呂彦特別対談レポート

 2012年9月23日(日)、世界遺産「熊野本宮大社」(和歌山県田辺市)の旧社地「大斎原」で開かれた熊野本宮大社正遷座120年大祭・特別対談「今こそ、熊野へ」に、荒木先生がゲストとして参加、再生の地・熊野で、癒しのトークを繰り広げた。(AGARA紀伊民報 / MSN産経ニュース

 開催地は和歌山県の山深い所にありで、大阪市内からでも車で片道4時間はかかるような所だが、事前販売されていたチケットは定員の500人分が完売し、その後も問い合わせが多かったことから、急遽、当日枠(100人)も追加された。
開催当日は朝からあいにくの雨で肌寒い空模様。野外のイベントで開催も危ぶまれたが、雨は午前中で上がり、イベント開始の13時半には、柔らかい日差しがさす気持ちのいい天気となった。(ウェザー・リポートが助けてくれた!?)

 対談は、イベント主催者で「神社プラス1」の発起人・和田裕美さんと、漫画家の荒木飛呂彦先生、脳科学者の茂木健一郎先生の3人で行われ、荒木先生からは、熊野古道を訪れたキッカケが、昔ジャンプで連載されていた『てんぎゃん -南方熊楠伝-』(岸 大武郎)だったことや、“神道”の発想と『ジョジョ』の接点、日本の神話を含めて先人から学ぶことの大切さ、マンガの個性についてなど幅広く語られた。

【 荒木語録 in 熊野 】

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    荒木先生が熊野を訪れるキッカケとなったのは、1991年にジャンプで連載されていた、『てんぎゃん -南方熊楠伝-』(岸 大武郎)。 当時、このマンガの担当編集だった椛島さん(=ジョジョの初代担当編集で荒木先生をエジプトに引っ張っていった方)から、「熊野に行こうよ!」としきりに誘われたが、荒木先生は「熊野関係ないし」と誘いを断っていた
    しかし、それからずっと後、『スティール・ボール・ラン』で大陸横断レースを描くにあたり、旅をするとどうなるか、何か自分でも旅がしたいと思った荒木先生は、ふと『てんぎゃん』と熊野を思い出し、2泊3日で熊野古道を歩く旅に出た。
  • しかし、2日目から靴が合わなくて足が痛くなり、荷物を軽くするために「いらないもの」を捨てたくなった。
    読んで癒されたくて持ってきていたマンガも、「いらねーな!」と(旅館のゴミ箱に)捨ててしまった。(自分のマンガではないとの事。まさか「てんぎゃん」だったりして…?)
     担当編集者から熊野はクマが出るからと言われて携帯も持たされたが、クマなんて全然いなくて携帯も捨てたくなった(でも何万円もしたので捨てなかった模様) 
    水、雨具は必要。『iPod』も捨てられなかった。
    必要な物は、芸術と必需品
  • 旅をして武者修行をするのが好き。 漫画家になると決めたときに、テント背負って仙台から北海道までサイクリングした
  • 熊野古道にはもう4、5回は来ていいて、1日で10~20km、那智の滝から歩いたり、滝尻王子から近露王子も歩いた。
    玉串料を納めて記帳も行なっていたので(別にアピールしたワケではないと強調)、それが縁で読んでもらえた。
    (熊野の記帳で荒木先生の名前を見つけた和田さんが、荒木先生なら来てくれるだろう!と当たりをつけて企画書を送ったとのこと。)
  • 和田さんから、ジョジョ25周年で相当お忙しい中来て下さって~と言われたとき、「それほどでもないです」(ただの謙遜なのか、それとも荒木先生にとっては本当に「それほどでもない」のか…!?)
  • “神道”と、ジョジョのスタンドには通じるものがあるらしい。
    ・自然を破壊→人間にダメージ
     (木を切ったら洪水が起こるように)
    ・スタンドを破壊→人間にダメージ
     (スタンドへのダメージ=本体へのダメージ)
    荒木先生曰く、「日本の神様の考えなのかな」。
  • 『スティール・ボール・ラン』は外国を舞台にしているが、レースを走っている「心」は日本の『水戸黄門』の影響を受けている。水戸黄門のストーリーで、海外の人物や舞台、ファッションで構築していく。つまり作品の底にあるのは日本の心。でも、そのことを読者には見せない。見せるとダサイ。
    先輩を尊敬し、分析しながら、海外の要素を取り入れていく。
    「日本人だから描けてるのかな」
  • 「外国かぶれしている」と思われているのがちょっと心外。
    お祓いとか行くの?とか言われたりする。家には神棚もある。
    だから、ここで話せることが嬉しい。
  • マンガうまいねって言われるとうれしい。 うまくなるには先人の絵とかを研究するのが大切。敬意を払うことが一番大事。
  • 昔の人の絵、歴史、物語、先人が残してくれたものがあるから絵が描ける。尊敬する心が漫画家には一番大事。逆に、漫画家にとって「うぬぼれ」は絶対だめ。うぬぼれると前に進めなくなる。
  • マンガを描いていると、自分の意志と違うものが「降りてくる」ことがある。
    打ち合わせと違うものが出来たり。
    あと、ジョジョ第4部の吉良吉影が強すぎて、これは主人公は勝てないな、もしかして負けて終わるのか?、とさえ思ったが、正義やいろんな物を信じて、なんとか主人公の勝利が「降りてきた」。
    マンガは緻密な計算ではなく、来週どうなるかも分からない。セリフもノリで、何も考えていない。
  • アイディアがいくつか出たときの判断基準はいくつかあって「読者にウケるだろう」とか「編集者が喜ぶだろう」っていうのもあるけど、マンガが必要としているところで判断している。そのベースとなる芸術的な判断力は、日本の精神(神道)が根底にある。
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    荒木先生が『古事記』を読んだことがないという話になり、和田さんから、『古事記』はエロい、「古代のエロ本」とも呼ばれている、という話を聞いた荒木先生が、「いいですね~」とがっつり食いつく。(荒木先生は『ジョジョリオン』コミックス2巻で、「振り返ると僕はあまりエロを描いてこなかったので、『ジョジョリオン』ではエロを追求したい気持ちがあります」、と語っている。)
  • マンガにもヤンキー系やオタク系と色々あるが、荒木先生はヤンキーが描けなかった。編集者にはオシャレすぎ、生々しさが出てないと言われたとか。
    ちなみに『ワンピース』はヤンキー系らしい(友情を大切するところや、ファッションなど)。ちなみに『ジョジョ』は、荒木先生によると「白土三平」系らしい。
  • 日本のマンガは心の隙間とかまで描こうとする。海外ではできない。 カット割りやコマ割も日本独自のものがある。
  • もはや定番の「若さ」について聞かれ、血は吸ってない、運動(漫画家にしては頑張っていると自負)と、東京の水道水での洗顔くらいとのこと。でも、52歳なので最近ちょっと老眼になってきてるらしい。「素敵に年を取りたい」
  • 漫画家の「個性」は、天然(=自然体)でやっている。個性が無いと淘汰される世界だから。読者が喜んでくれた部分を発展させる、理解して行うことが出来るかどうか。
    探したりするものでもない。自分の個性に「気付く」心が必要。
    絵に関しては、ひと目で誰の絵か分からないとダメ。サインや判子で分かるようなのはダサイ
  • (茂木先生の呼びかけで)ウルジャン編集部の井藤さんが登場(『SBR』の担当編集をされていた方)。
    井藤さん曰く、プロの漫画家にとって一番必要なことは「期間内に形にして納めること」だが、荒木先生は集中力がものすごい。描いている最中は周りが見えてないんじゃあないか、というくらい。マンガを描くのが大好きなんでしょうね、とのこと。
    (ちなみに荒木先生は今まで一度も原稿を落としたことがない。)
  • キャラクターは親やルーツがないと生きてこない。マンガは音楽のように連続し繋がっていく、運命みたいなものがある。だからコマをカットしろと言われるとすごく難しい。
  • 絵を描いているうちに理解できることがある。これはヒッグス粒子で説明できるな、とか。
    アインシュタインの相対性理論も絵で説明できるのでは、と考えている。
    絵というものは無限に描くことができる。『モナリザ』の唇も、ダ・ヴィンチはまだまだもっと描けたと思う。
  • 荒木先生に質問コーナー。参加者の1人が選ばれる。その場で質問かと思いきや、茂木先生に前へと呼ばれて、壇上で荒木先生を目の前にして質問することに!茂木先生が写真に撮ってツイート

    Q:コミックス1巻の作者コメントに書かれている『人間讃歌』というテーマは、最初に「これで行くぞ!」と決めたものなのか、それとも描いているうちに確信したものなのか?

    A:何か書かなきゃいけなかったから。
    コミックスのスペースに書けと編集部に言われて、何にしよっかなー、と考え、
    機械などに頼らず、神様に助けてもらうワケでもなく、自分の意志で戦って何かを掴んでいくストーリーだから、軽い気持ちで何気なく『人間讃歌』と決めたが、「我ながらにいいこと書いたな~!」と自画自賛。しかもこのテーマでストーリーが行き詰まらず、どんどん描くことができた。
    (これも天然の成せる技か。)

 

 和田さん、荒木先生、茂木先生の異色の3人による対談は、神道からクールジャパンまで幅広く自由に展開し、あっという間の楽しい2時間だった(写真:「終了後、和田さん、荒木さん、宮司の九鬼さんと。」)。正直、行くだけでかなり大変だったが、間近で荒木先生のトークが聞けて、行って良かったと心から思えるイベントだった。
参加者はジョジョファンのみならず幅広い年齢層だったが、イベント終了後、「私もジョジョを読まないと」、と話す参加者の声も聞かれた。(あと会場でジョジョスマホを使う方が3人はいた!?)

 なお、荒木先生はイベント終了後、南紀白浜空港の最終便(18時30分)で東京に帰られたとの事。
空港で偶然(必然!?)荒木先生にお会いできたというファンの方々もいて、何と握手や記念撮影にも気さくに応じてもらえたとか(荒木夫人がシャッターを押してくれたとの事!)。荒木先生の手は、やはり「ふわふわ」だったそうな。

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(情報グラッツェ!<ふぇおさん、お仕置きズラ男さん)