荒木飛呂彦先生講演『損をしない漫画を描くための地図』&イベントレポートリンク集

#追記(12/10):レポート3件追加!

「男には地図が必要だ
 荒野を渡りきる
 心の中の「地図」がな」

『スティール・ボール・ラン』4巻[AA]、グレゴリオのセリフより

11月2日の「東北大学祭」11月3日の『青山祭2007』と、2つの大学祭で行われた、荒木飛呂彦先生の講演。
2つの講演では共通して、『損をしない漫画を描くための地図』と題し、荒木流の漫画の描き方が語られた(ちなみに「東北大学祭」の方では、荒木先生と、カジポンさん、鬼教官さんによるジョジョ立ち講座も開かれたとか!)。今回、幸運にも『青山祭2007』に参加できたので、その内容をここに紹介したい。

『青山祭2007』 荒木飛呂彦先生講演
『損をしない漫画を描くための地図』

  • <「地図」とは>
    雑誌に載ってヒットする漫画を描く為の「地図」。
    未開の山を目指すなら、まずその山のふもとに辿り着かなければならない。その為の「地図」。
    また、スランプに陥り、道に迷った時に、ちゃんと帰ってくる為の「地図」でもある。


  • <漫画を構成する4つの要素>

    ストーリー漫画でもギャグ漫画でも、どんな漫画にも必ずある、4つの要素。「ストーリー」と「キャラクター」、それを統括する「絵」、ストーリーの背後にある「テーマ」。


  • <絵>

    15メートル先から一目見て、それ(・・)と分かるデザインである事が重要。

    例えばジャンプ漫画なら「リングにかけろ」(車田正美)、「キャプテン翼」(高橋陽一)、「ワンピース」(尾田栄一郎)は、遠くから見ても何を読んでいるのかが分かる。
    また、誰が見てもそれと分かる「ピカソ」の絵画や、マル3つだけで分かる「ミッキーマウス」、大スターなら「マイケル・ジャクソン」も、遠くから見ても分かる。絵が上手い・下手ではなく、15メートル先から見て分かる、自分だけの「絵」を持つ事がまず重要。(遠くから見ても分かる絵、という話は、昨年6月のサタデープログラム 荒木飛呂彦講演「漫画家という仕事」でも話されている。)


  • <キャラクター>

    ヒーローとは『孤独』に世の中の悪に立ち向かっていく人の事を言う。
    「善」を大きく描き、それに対比して「悪」を描く。
    そして2つに必要なのが「読者の共感」。

    ヒーローは仲間がいても、1人。それがカッコイイ。「悪」は自由に描けるので、例えば吉良吉影の性癖を細かく考えたり、DIOは本当は女が好きだけど男でもOK、みたいな設定を考えたり、「悪」を描くのは楽しくて簡単で、作者も読者もスカッとする。反面、「善」は安易に描くと読者に反感を買われやすく、描くのは凄く難しい。だが、悪は善を引き立てるもの。悪ばかり描いていてはむなしいし、「善」は美しい心、正義や勇気を持っていて、時代を超えて愛される。だから、「善」を大きく描き、それに対比して「悪」を描くのがキャラクター基本。
    そして、2つに必要なのが、「読者の共感」。
    主人公にも、吉良のようなヤバイ奴にも、ただの雑魚キャラにも、読者に好かれる「愛」が必要。


  • <ストーリー>


    (1)主人公を困難な状況に突き落とす
    (2)困難を主人公は乗り越えようとする
    (3)乗り越えようとするが、悪化して絶体絶命
    (4)ハッピーエンド

    絵とキャラクターを動かしていくのが、「ストーリー」。
    プロの中には、キャラクターさえいればストーリーは動いていく、と言う作家もいるが、それでは行き詰ってしまう。ストーリーの上で動かしていくと、主人公が成長し、時代や年代を超えて読まれる作品となる。そして、主人公とストーリーは一体化していなくてはならない。
    ストーリーの基本は、上の4つのパターン(荒木先生は「黄金の地図」と表現)。困難に立ち向かい、絶体絶命になっても、あくまで最後はハッピーエンド。ここで言うハッピーエンドとは、単純に勝ち残る事ではなく、例え主人公が死んでしまっても、美しい心の為に、誰かの為に死んでいくなら、ハッピーエンド。この構成のバリエーションで、バトルでもギャグでも恋愛でも描ける。


  • <テーマ>

    絶対に読者を説教してはならない。
    テーマは作品の背後に隠す。

    ストーリー、キャラクター、絵を統括するのが「テーマ」。作者の哲学でもある。
    重要なのは、絶対に読者を説教してはならない。説教をすると読者は引いてしまうし、反感を買ってしまう。だから、テーマはキャラクターの行動やセリフ、最後のメッセージなど、作品の「背後」に隠す。新人漫画家でよく、「テーマ」をストーリーそのものにしてしまっている人がいるが、それは必ず編集者に没にされる。


講演の後半は、荒木先生の生原稿(のコピー)が教科書として使われ、しかも作者自らの解説付き! 原稿がスクリーンに映し出される度に、「うおおおおおおおお!」と地鳴りのような歓声が上がった。

こうして、全員が「ヘブンズ・ドアー」で本にされてもおかしくない濃密世界の講演は、あっという間の1時間で、予定通り閉幕。万雷の拍手に送られ、荒木先生は会場を後にした。ちなみに講演開始までの空き時間は、実行委員の方々によるジョジョ立ち講座やクイズ大会、トークイベントなどが開催され、会場に入ることの出来たファンには、ディ・モールト充実したイベントとなった。講演を引き受けてくださった荒木先生と、今回の講演を企画・運営された方々に、ディ・モールト・グラッツェ!

『漫画を描くための地図』以外の、荒木先生の小ネタを紹介。

  • 壇上に上がった荒木先生、素数を数えていたが、素数が何だったかも分からないくらい緊張(笑)。
  • 好きな食べ物はスパゲティ。好きなアイドルは黒木メイサ
  • 荒木先生の娘さんが来年、青学を受験すると言っていて、その時、「お前の親父、ウチの講演断ったよなー」と嫌みを言われない為に引き受けた。(勿論、荒木流のジョーク(笑))。
  • 用心深い性格で、初めて食べるお菓子は必ず誰かに食べさせてから食べる(笑)。プラズマTVも、もっと安くていいのが出るだろうと待っていたら、未だにブラウン管。用心深くなったキッカケは、子供の頃、「謎」を追求するあまり、魚に見とれて池に落ちたり、ウサギの足跡を追って肥溜めに落ちたりしたことがあるから、らしい。
  • 「ウソをどうやって本当のことのように描くか」。漫画家になってから、そういう事ばかり考えている。だから、あの占い(『脳内メーカー』の結果の事)も、あながち嘘ではない。
  • 「青学祭2007」パンフレットより。

    Q:いまだにインターネットは使ってないのですか?
    A:はい。アナログ派宣言。

    Q:荒木先生ご自身にも超能力・霊感がおありだというお話はよく耳にしますが、近頃も妙な出来事に遭遇されましたか?
    A:”不死身のネコ”に遭遇した。(くわしくは書けないけど)(霊感はないよ)

#他にもイベントレポートを書かれた方がいましたら、是非お知らせ下さい!(荒木先生が秘密にして、と仰っていたアレについては、もう雑誌が発売されたので、多分OK…?)

(ディ・モールト・グラッツェ!<A・Aさん)